大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1190号 判決 1962年7月31日
第一一九〇号控訴人・第一一八七号被控訴人(原告) 米谷忠雄
第一一九〇号被控訴人(被告) 荻田彰
第一一八七号控訴人(被告) 大阪府知事
主文
昭和三五年(ネ)第一、一八七号事件についての控訴人大阪府知事の、同年(ネ)第一、一九〇号事件についての控訴人米谷忠雄の各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人米谷忠雄と被控訴人荻田彰との間においては控訴人米谷忠雄の負担とし、被控訴人米谷忠雄と控訴人大阪府知事との間においては控訴人大阪府知事の負担とする。
事実
昭和三五年(ネ)第一、一八七号事件につき、控訴人大阪府知事は「原判決主文第一項を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人米谷忠雄は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
昭和三五年(ネ)第一、一九〇号事件につき、控訴人米谷忠雄は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人荻田彰は控訴人に対し、原判決添付目録記載の土地について大阪法務局八尾出張所昭和二五年六月二六日受付第三五九号をもつてなした昭和二二年一〇月二日自作農創設特別措置法第一六条の規定による政府売渡を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、訴訟費用は第一、二審とも控訴人と被控訴人荻田彰との間に生じたものは被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人荻田彰(以下単に被控訴人と略称する)は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の主張証拠の提出援用認否は、
昭和三五年(ネ)第一、一八七号事件の控訴人大阪府知事(以下単に控訴人大阪府知事と略称する)において、
行政処分無効確認訴訟は、たとえば「出生による国籍の確認」のように或る人についての包括的な法律関係の確認を求める必要のある場合等特殊な場合を除き、過去の行政処分それ自体の効力存否の確定を目的とするものであるときは確認の訴の対象としては権利保護の資格を欠くというのが確定した訴訟理論である。原判決が過去の行政処分それ自体の効力の存否を対象とするものと認むべき本件農地買収処分の無効確認訴訟を適法であると判示したのは失当である。
本件無効確認の訴の目的は現在の法律関係に関する確認の訴によつて十分目的を達し得べきものであつて特に過去の行政処分そのものの効力存否を訴によつて確定することを許すべき場合に該当するものではない。ところで本件農地の買収売渡処分の無効を原因として本件土地に関する現在の法律関係に関し確認訴訟を提起することになればそれはいわゆる抗告訴訟ではなくして当事者訴訟の形態をとるものと解すべく、当事者訴訟については行政庁は被告となる適格を有しない。したがつて本件無効確認の訴を過去になされた本件農地買収処分そのものの効力の不存在の確認を請求するものでなくその本旨は右処分の無効を前提として本件土地に関する現在の法律関係の確認を求めるにあるものと解するとしてもなおこのような確認の訴については行政庁たる大阪府知事は被告たる適格を有しないから本訴は不適法として却下を免れないものというべきである。
次に本件無効確認請求は確認の利益を欠缺するか若しくは具体的に如何なる確認の利益が存するか不明確であるからこの点において不適法な訴というべきである。すなわち、仮に本件買収処分が当然無効と認められるとしても買収農地はすでに被控訴人荻田彰がこれを時効取得していること原判決も認定しているとおりであり、また右土地が被控訴人荻田彰に帰属する旨の登記の存することは当事者間に争がないのであるから、あたかも不動産の二重売買において買主の一方のためにすでに所有権移転登記がなされてしまえば、もう一人の買主に対する関係においては右売買は履行不能に帰するのと同じく、もはや被買収者たる控訴人米谷忠雄のため本件買収処分以前の原状回復を実現することは不能に帰したものと認めるべきであるから右原状回復は本件確認の利益を基礎付けるものではない。
また右原状回復請求権が既に損害賠償請求権に変容しているとしても現実に本件の訴訟物とされているのは本件行政処分の無効確認に外ならないのであつて損害賠償請求との関連は唯将来別訴によるべき損害賠償請求につき前提をなすだけの意義を有するにすぎず本訴請求の認容によるも控訴人米谷の本件土地に対する法律関係が一挙に総括的に確定されるわけでもなければ、また直ちに右損害賠償請求が認容されたことにもならず、損害賠償請求については別にそれに特別の要件の存否が確定されることが必要なのであるから若し訴の目的が終局的には控訴人において右損害賠償の請求をなすにあるのであれば本件のように確認を求める訴訟形態によることは迂遠で不適切な方法といわなければならない。
以上のようにその実現がもはや不能と認められる原状回復請求や本件訴訟手続内においては遂にその要件の存否を確定し得べくもなくしたがつて未だその成否は不明というの外ない損害賠償請求権をもつて本件訴の確認の利益の存在を肯定する理由となした原判決は失当である。本件確認の訴は具体的且つ明確な確認の利益と認め得べきものを具備せず、控訴人の実質上の請求が若し前記原状回復の不能による損害賠償を求むるにあるとすれば不適切な訴訟形態によるというべきもので、いずれにしても不適法である。と述べ、
昭和三五年(ネ)第一、一八七号事件の被控訴人、同年(ネ)第一、一九〇号事件の控訴人米谷忠雄(以下単に控訴人米谷と略称する)において、立証として、当審における証人大場忠次郎、米谷忠次郎、荻田仙太郎の各証言、被控訴人荻田彰本人尋問の結果並びに原審の職権による控訴人米谷本人尋問の結果を援用する。と述べた。
外原判決事実記載と同一であるからこれを引用する。
理由
当裁判所が昭和三五年(ネ)第一、一八七号事件の被控訴人米谷忠雄の控訴人大阪府知事に対する本件農地買収処分無効確認請求の訴が適法でありその請求も正当として認容すべきものとする理由は原判決理由中一及び二の記載(原判決一〇枚目表六行目から一四枚目裏一二行目まで)と同一であるからこれを引用する。
昭和三五年(ネ)第一、一九〇号事件の控訴人米谷忠雄の被控訴人荻田彰に対する本件土地所有権移転登記の抹消登記手続請求を失当として棄却すべきものとする理由は原判決理由中三の記載(原判決一四枚目裏一三行目から一七枚目裏二行目まで)と同一であるからこれを引用する。
そうすると右と同旨の原判決は正当であつて控訴人大阪府知事の昭和三五年(ネ)第一、一八七号の控訴並びに控訴人米谷忠雄の昭和三五年(ネ)第一、一九〇号の控訴はいずれも理由がないから民訴法第三八四条によりこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき同法第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 山崎寅之助 山内敏彦 日野達蔵)